2023心に残った本いくつか
毎年書いてる気がするけど、ますます本を読んでない。
特に小説を読む気力がなくて、数少ない読んだ小説も自分好みのものに出会えず(さらっと読めそうなものしか読んでないからというのもあるが)、おもしろい小説が読みたいなあ。
www.nippyo.co.jpセックスワーカーの具体的な困りごと事例とその対処法が書かれた本かと思ったら、だいぶ違った(もちろんそういうことも書かれてはいる)。というか冷静にタイトルを見ればスタディーズ=研究なのだからわかりそうなものではある。版元の内容紹介に「性と人権を学ぶ人に必携の一冊」とあるが、射程が広い、いい本です。セックスワークをめぐる言説は多々あるが、まずは現状存在しているセックスワーカーを労働者として扱えと本書は主張する。実際そうすれば、解決する当事者の困りごとは多かろう。性的マイノリティに関しても言及あり。
それにしても、具体的事例で「ローションの質が悪いから別のものに変えてくれ」という女性セックスワーカーに対して、多くの男性マネージャーが考える解決法が「ご飯を奢る」なのが絶望的。労働者として扱え。
『トランスジェンダー問題』ショーン・フェイ/高井ゆと里 訳
話題の赤くてでかい本その1(その2は『射精責任』、こっちは未読)。
イギリスの現状について書かれた本だが、訳者の註が大変丁寧で親切、巻末に日本の現状紹介もあり。勉強になった。分厚くて読むのがきついという人は訳者と周司あきらの共著『トランスジェンダー入門』をどうぞ。
トランスたちの権利が制約される世界はトランスジェンダーを人間扱いしないナラティブや、トランスジェンダーは性的侵略者であるとする神話の上に成り立っている。(中略)
同様にシスジェンダー女性の生殖の自由は、保守派陣営にとって最初に抑圧すべきものである。ミソジニー、ホモフォビア、トランスフォビアはたくさんの同じDNAを共有している。家父長制にとっては、私たち全員が誤ってジェンダーを行なっているのである。
iss.ndl.go.jp国会図書館の個人送信サービスで読んだ。いい時代ですね。
宮沢賢治の年下の文学友達である森荘已池による、農学校時代の賢治を知る当時の同僚や生徒などへの聞き書き集。
エピソードの数々がおもしろいし、賢治は変人だし坊々だけど、陽気だし人に好かれてる感じがする。同僚にも恵まれているし(仲良いな)教師時代が一番幸せだったのではないか。教師を続けていたら「雨ニモ負ケズ」は生まれていなかったわけだが。
あと「童貞じゃないって言ってたけど童貞だったよね」とか言われてて、直接の知り合い、容赦がない。
Webサイトを作りました
今更すぎるのですが、イラスト・広告漫画のポートフォリオサイトを作りました。
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2022心に残った本いくつか
コロナ禍で初めての緊急事態宣言が出た2020年3月、小説家の叔父と中学入学前の姪は利根川沿いを歩いて千葉・我孫子から鹿島アントラーズの本拠地を目指す。
保坂和志の『プレーンソング』を読んだ時にも似た衝撃を受けた。主人公の心情を本当に鮮やかな形で追体験できる。小説を読んでこんな体験をしたのは初めて。スケッチ、サッカー、ジーコ、水鳥とどの話題もすばらしいが、姪による「おジャ魔女カーニバル」語りが白眉。
円城塔作品の中では割合わかりやすいとされているらしく、実際わかりにくくはない。めくるめくイメージの連鎖が楽しい一冊。
Webに大森望*1、沼野充義氏の解説がそれぞれあり、それを読むとより楽しめる。
www.kashiwashobo.co.jpジェンダー先進国ノルウェーで、制度的な男女平等は一定水準達成されたがしかし、という本。
仕事以外のケアを妻が担うことを前提とした従来の1日8時間労働を共働きでやるのは無理、賃上げよりも労働時間短縮にシフトすべきと著者は主張する。ケロッグ社が大恐慌時に地元の雇用確保のために6時間労働を採用した結果、従業員の幸福度が上がったという話が興味深い。
本以外では、ハル・ハートリーの映画、小学館時代の星里もちる作品など、昔の作品だけど今見たり読んだりしても古くないなと思うことが多かった一年でした。
*1:最近、本名が英保未来(あぼ みくる)と知ってそっちの方がPNみたいじゃんと思った
2021心に残った本いくつか
今年は、ロシア(ソ連)に関する物、SF を比較的よく読んでました。特に中国SFの刊行が多くて、しかもアンソロジーが多いのでどれを読んだかわからなくなることしばしば。しかし『三体』は未読。だって3冊かと思ったら5冊あるんだもの……。
www.hakusuisha.co.j日本であまり紹介されてない中国とアメリカの作家の短編アンソロジー。初っ端の『マーおばさん』がすごく好き。本を読んでいて、作中で登場人物が突如出会うことに対して驚くのと同じように驚くことってそんなにないけど、とある場面で「うわっ!」と思い、思わず本を一回閉じて落ち着くために部屋をうろうろしてしまった。まったく古くないがなんと20年ほど前の作品らしい。
www.iwanami.co.jpコミカライズされたしということで再読。書かれている内容もさることながら、何が語られ、そして語られていないのかが肝でもあるので、漫画にするとその辺が難しいなと思った(漫画はとびとびにしか読んでませんが……)。
www.hayakawa-online.co.jpケン・リュウ最新短編集。SF作家は基本的に皆めちゃくちゃに頭がよいものだけど(と書くのも頭の悪さがすごい)、「WWⅡ時の沖縄のユタの血を引く日系アメリカ人女性の話」とか「三国志を寛骨堕胎した変身ファンタジーシスターフッドもの」とかなんでそんなん書けるんじゃい、というものの目白押し。要素大盛りで一歩間違えばB級になりかねないところをねじ伏せてエンタメに仕上げる手腕も本当に素晴らしいが、その手腕を虐げられている者の誇りを描くことに費やすことが多いのが、この作家の一番好きなところです。
2020心に残った本いくつか
コロナ禍で図書館から足が遠のき、全体の読書量は減り、電子書籍購入率が上がった一年だった。
近年、韓国をはじめとする東アジア諸国の小説やジェンダーを取り扱った小説が多く発刊されるようになって、自分も今年はそういうものを読む機会が多かった。韓国、台湾の小説はわりと近隣諸国の文化、人種が登場することも多くて、当たり前だけど地理的にも文化的にも兄弟的な関係なのだなと読んでて感じる。
www.chikumashobo.co.jp子供を対象とした実験を紹介しながら、言語獲得のプロセスをひもとく。小さい子供がいる方、語学学習をしてる方はより一層おもしろく感じるのでは。
www.kyoto-up.or.jp表題の通り、中国ジェンダー史研究を概観できる。とても誠実。ところで、一時期、中国王朝について調べごとをしてたけど、京大の論文のwebヒット率が高かった。自分が見た範囲では、論文は最近のものでもほぼ旧漢字表記だったが、この界隈のルールなのだろうか。謎。
www.hayakawabooks.comフランス・パリにある女性会館(シェルター施設)が舞台の小説。著者の前作『三つ編み』が空間を隔てた女性たちが繋がる話だったのに対し、今作は同じ場所を舞台に時間を隔てた女性たちが連帯する物語。短い現在形の文を畳み掛けるように連ねる文章で、主人公たちがずんずん進んでいくさまが描かれるのが熱くていい。